仏像の豆知識

仏像との出会い

現代社会の中でも、われわれが仏像に出会う機会は意外と多いです。
寺院の本堂や家の仏壇、また博物館や美術館、野山の道端など、日本中いたるところにさまざまな仏像がまつられています。
そんな仏像に接していると、なにか自分の心が癒され和んでくることに気づいてきます。
昔から人々は、仏像を拝することで心の安らぎを得、その威厳に満ちた姿に触れることで、自らの生活や人生に対する態度を改めてきたのです。
救いを得たいという願望が、「心はかたちを求め かたちは心をすすめる」というように、多くの仏像を生み出していったのではないでしょうか。

仏像の伝来

仏教においては、仏像を造ることはとても功徳があると経典にも説かれ、造りやすいように、仏像の特徴を記した経典づくりも行われてきました。
仏像は日本ばかりでなく、インドや中国、朝鮮、ビルマ、タイなどでも造られてきました。
ガンダーラやマトゥラーは塑造や石造が多く、中国は石造が多いです。これは日本のように木材が多く採れないから石や土の仏像が多いのです。
日本人が初めて仏像に出合ったのは、6世紀頃だといわれていますが、それは朝鮮から仏教が伝えられた時に一緒に運ばれてきたからです。
仏像には、さまざまな種類があります。
初めは釈迦の像だけだったのが、釈迦以外にも仏は存在するという考えが出てくると、まず如来(にょらい)像の種類が増えました。
そして如来になる前段階の菩薩(ぼさつ)像が登場し、インドの在来宗教の神々を仏教に取り込んだ天部(てんぶ)像や密教系の明王(みょうおう)像、さらに仏弟子(ぶつでし)高僧(こうそう)像、神仏習合による垂迹神(すいじゃくしん)などが現れました。
仏教が歴史を重ねていく過程で、次々とその数を増やしていくことになったのです。

仏像の製作方法

外来文化の影響やわが国の仏像製作技術の発達などによって、時代が下がるにつれ、仏像の製作方法も変わってきました。
飛鳥から奈良時代にかけ、国をあげて仏教を興隆させるために、外国から技術者を招いて仏像を造りました。銅像製作のためには、鋳造(ちゅうぞう)の技術者を中国や朝鮮から招き、その時に塑造(そぞう)乾漆造(かんしつぞう)の技術も学びました。
平安時代に入ると石像や木像がふえ、わが国の仏像製作技術も発達してきましたが、定朝(じょうちょう)があらわれ寄木造りを完成してからは、製作時間が短縮され製作は一層容易になりました。

仏像の材質

仏像の材料には木・石・土・金属、そして漆などがあり、仕上げにメッキ、金箔や彩色を施します。
これらの材料は時代によって変化しています。木・石は彫像、土は塑像、金属は鋳像にすることが多く、漆は他の材料と併用することが多いです。

木彫仏像(もくちょうぶつぞう)

木目の見える木地を彫ったままの木地彫り仕上げの場合と、漆を塗ったり彩色を施したり、金箔を押したり表面を加工する仕上げの場合があります。
時代が古い木彫仏像では、表面に塗った漆や彩色がはげ落ち、木目の見えていることが多いので、木彫と判別できますが、木目が見えない場合でも、木彫は乾漆より彫りのするどいものが多いので見分けられます。
木の種類は桧、榧、樟、柘植、白檀などが多いです。
造りは一本の木材から造る一木造りと、数点の木材を組み合わせて造る寄木造りがあります。

乾漆仏像(かんしつぶつぞう)

漆を塗り固めて造る乾漆仏像は、脱乾漆と木心乾漆の2種類があり、天平年間によく用いられた技法です。
脱乾漆は、粘土の原型の上に麻布を漆で塗り固め、乾燥後に中の土を取り出して張子を造り、内部を補強して表面を仕上げます。
木心乾漆は、木でおおよその原型を造った上に、麻布を漆で塗り固め表面を仕上げます。
乾漆仏像の特徴は、ボリュームがあるがポーズがやや単調なところです。
東寺の梵天・帝釈天像が代表的です。

塑像(そぞう)

粘土で造る塑像の技法は中国伝来のもので、奈良時代のものが多いです。
塑像の特徴は湿度の影響を受け、干割れがおきたり彩色がはげたりしやすい反面、きめ細かに仕上げられます。
広隆寺の弥勒菩薩坐像が代表的です。

鋳造仏像(ちゅうぞうぶつぞう)

金属で作られている仏像の中では、銅合金のものが圧倒的に多いです。
銅は加工しやすく、入手が比較的容易だったからです。
鋳造仏像は、土で原型を造り、蝋を塗って細部を彫刻します。
そのまわりを土の外型で覆って焼くと蝋が溶けて空洞ができ、そこに溶かした金属を流し込みます。
型の中で金属が固まって外型をはずすと仏像が現れるというものです。
大仏はほとんど銅製で、奈良や鎌倉の大仏が代表的です。
また、法隆寺の釈迦三尊や薬師寺の薬師三尊も銅製で、多くは金メッキを施して金銅仏といわれています。

石仏(せきぶつ)

海外では仏像といえば石仏というほど大石仏の作例が多いですが、日本ではそれほど多くありません。
それは日本には巨岩がなく、石造文化が栄えなかったからです。
それでも野仏(のぼとけ)はかなり造られてきましたが、石がもろかったり風化したりし、また露仏(ろぶつ)が多いので比較的保存も悪いです。
その場所にある石に直接彫刻する場合と、切り出してきた石を彫刻する場合があります。
臼杵の石仏が代表的です。

仏像の種類

仏像の種類としては、如来(にょらい)菩薩(ぼさつ)明王(みょうおう)天部(てんぶ)・その他の5つに分類されます。

如来(にょらい)

如来とは、悟りを開いた人をいいます。
如とは真理のことで、その真理の世界からこの世に来た人という意味です。

主な如来像

釈迦如来(しゃかにょらい)
釈迦如来はシャーキャ(釈迦)国の王子として出家修行し如来となった、歴史上に実在した唯一の如来です。
釈迦三尊とは、釈迦如来を本尊に、脇侍(わきじ)はその左に普賢菩薩、右に文殊菩薩を配置した形式です。
これは文殊の智と、普賢の慧を意味し、いずれも智慧によって如来を守る役割をもっています。
阿弥陀如来(あみだにょらい)
梵語のアミターバ(無量光如来)、またはアミタユース(無量寿如来)の音を写したもので、量りきれないほどにたくさんある光、また量り知れないほどの寿命を意味します。
この苦悩の世にいる人々を、西方の極楽浄土へ救い続けてくれる仏さまです。
阿弥陀三尊とは、阿弥陀如来を本尊に、脇侍はその左に観音菩薩、右に勢至菩薩を配置した形式です。
阿弥陀仏が念仏者の臨終に来迎する時、勢至菩薩は念仏者に往生の心をおこさせ、観音菩薩は蓮台に念仏者を乗せて浄土に導きます。
毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)
華厳系の経典に出てくる仏さまで、毘盧遮那如来ともいいます。
太陽の暖かな光があまねく照らすほど、広大な智慧を意味していて、毘盧遮那仏の存在する浄土を蓮華蔵世界といいます。
広大な智慧の光が国を護るというので、奈良の東大寺や唐招提寺に大仏が造られました。
大日如来(だいにちにょらい)
大日如来は、毘盧遮那仏を太陽にたとえた思想よりも一歩進んで、太陽を中心とした宇宙全体にたとえられます。
密教において最高位の仏さまで、宇宙の根本仏とされています。
薬師如来(やくしにょらい)
東方の瑠璃光世界にあって、人々を救ってくれる如来です。

その他に、多宝如来(たほうにょらい)五智如来(ごちにょらい)などがあります。

菩薩(ぼさつ)

菩薩とは、悟りを求め、如来になるよう修行に励んでいるものをいい、如来に代わって人々に教えを説き、苦悩する人々を救おうとします。

主な菩薩像

聖観音菩薩(しょうかんのんぼさつ)
観世音菩薩ともいい、多くの観音がある中で、その基本となる観音です。
人々の苦しみの声を聴き、苦しみのありさまをしっかりと見届けて、その人たちを全て救ってくれる崇高で偉大な菩薩です。
十一面観音菩薩(じゅういちめんかんのんぼさつ)
11の頭脳を持った観音菩薩で、罪を許すなどの御利益があります。
千手観音菩薩(せんじゅかんのんぼさつ)
その手の平に各々眼を持つ千手千眼観音で、無限の慈悲で、すべての人の苦悩を救い、願いをすべてかなえてくれる菩薩です。
如意輪観音菩薩(にょいりんかんのんぼさつ)
意のまま(如意)に宝珠や法輪を用いて人々の願いをかなえてくれる観音菩薩で、宝珠は金銀財宝を生み出し、法輪は福徳智慧を生み出すといいます。
不空羂索観音菩薩(ふくうけんじゃくかんのんぼさつ)
羂索とは、狩猟に用いる環のついた縄のことで、この縄で、すべての人々をもらすことなく救ってくれる菩薩です。
准胝観音菩薩(じゅんていかんのんぼさつ)
密教で重んじられ、古くからこの観音を本尊として人々を救済する加持祈祷が行われています。
馬頭観音菩薩(ばとうかんのんぼさつ)
仏法や人々を悪魔から守り、人々を悪道に陥らせないようにする菩薩です。馬や牛などの守護仏として、また足の悪い人にも信仰されてきました。
勢至菩薩(せいしぼさつ)
普通は阿弥陀如来の脇侍として登場し、智慧の光によって一切をあまねく照らし、人々の迷いを取り除く力をもつ菩薩です。
文殊菩薩(もんじゅぼさつ)
普賢菩薩と共に釈迦如来の脇侍となります。
智慧と戒律を司る菩薩とされ、「文殊の智慧」というように、学業成就に霊験がある菩薩として信仰を集めています。
普賢菩薩(ふげんぼさつ)
文殊菩薩と共に釈迦如来の脇侍となります。
普賢とは、「普遍の教え」という意味で、諸仏の理性を示し、慈悲を司る重要な菩薩とされています。
あらゆる場所に現れて人々を教化し、救済してくれる菩薩です。
弥勒菩薩(みろくぼさつ)
弥勒とは、慈から生まれたものという意味です。 今でも兜率天(とそつてん)という天上界で修行中の身ですが、釈迦が入滅してから56億7000万年後に現れて、人々を救済すると説かれる菩薩です。
虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)
虚空のような広大無辺の智慧と慈悲で、人々のさまざまな願いをかなえてくれるという菩薩です。 記憶力を得るという「求聞持法(ぐもんじほう)」の本尊として、学業成就の信仰が盛んになりました。
地蔵菩薩(じぞうぼさつ)
釈迦が入滅し、弥勒菩薩が56億7000万年の後に現れるまでの間、この世にあって多くの人々の苦しみや悩みを救う菩薩です。

明王(みょうおう)

明王とは、如来の教えに従わない救いがたい人々を救済するために、如来の命を受けて怒りの形相(忿怒(ふんぬ)相)になって現れた仏です。

主な明王像

不動明王(ふどうみょうおう)
大日如来の化身であり、人々を屈服させてまで救済しようと忿怒(ふんぬ)の形相している、もっとも功徳の大きい明王です。
煩悩を除き一切の災いを打ち砕いてくれます。
修行する者を護る仏で、悪を断じて悟りにいたらせる働きがあります。
愛染明王(あいぜんみょうおう)
人間の愛欲を浄化して菩提心に変え、敬愛によって人々を解脱(げだつ)に導く明王です。
孔雀明王(くじゃくみょうおう)
孔雀が毒蛇を食べるといわれることから、災いを振り払ってくれる明王です。

その他に、降三世明王(ごうざんぜみょうおう)軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)大威徳明王(だいいとくみょうおう)金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)などがあります。

天部(てんぶ)

天部とは、天上世界に住む鬼神をいい、仏教を信じる心を妨げる外敵から人々を護り、仏法を守護するという役割をもっています。

主な天部像

梵天(ぼんてん)
須弥山の上の方の色界(しきかい)初禅天に住み、帝釈天と並んで釈迦如来を守護します。
帝釈天(たいしゃくてん)
戦士の守護神ともいわれ、梵天とともに釈迦如来の脇侍となることが多い。
四天王(してんのう)
持国天(じこくてん)増長天(ぞうちょうてん)広目天(こうもくてん)多聞天(たもんてん)をあわせて四天王といいます。
須弥山中腹の四王天に住み、それぞれ東南西北の四方にいて、仏法及び仏法を信仰する人を守ります。
毘沙門天(びしゃもんてん)
四天王のうち、北方を護る多聞天が単独で祀られる時の名前です。護国あるいは戦勝神として武士の信仰も盛んでした。
吉祥天(きっしょうてん)
福徳を司る女神で、毘沙門天の脇侍とする時は、妻として扱われる。
弁財天(べんざいてん)
梵天の妻で、音楽、財福、智慧を司る女神です。

その他に、金剛力士(こんごうりきし)十二神将(じゅうにしんしょう)八部衆(はちぶしゅう)二十八部衆(にじゅうはちぶしゅう)などがあります。

その他の仏像

その他の仏像としては、神仏習合による垂迹神(すいじゃくしん)や釈迦の高弟の羅漢(らかん)、聖徳太子や弘法大師、日蓮などの祖師(そし)高僧(こうそう)などがあります。

お仏壇の中の仏像

お寺の中心がご本尊であるように、家庭のお仏壇の中央にはご本尊を安置します。
ご本尊には、お姿のある仏像と絵像の掛軸があります。意味合いは同じですので、お仏壇の造形などに合わせて、どちらかをおまつりします。
ご本尊は、菩提寺の宗派によってそれぞれ異なります。
天台宗は座阿弥陀如来、真言宗は大日如来、浄土宗は舟阿弥陀如来、真宗大谷派は東阿弥陀如来、浄土真宗本願寺派は西阿弥陀如来、臨済宗は釈迦如来、曹洞宗は釈迦如来、日蓮宗は曼荼羅(まんだら)です。

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