数珠は、お葬式や法事、お墓参りの時に手にする最も身近な仏具です。
常にこれを持って仏さまに手を合わせれば、煩悩が消滅し、功徳を得られるといわれています。
数珠は合掌する手に掛け、仏さまと心を通い合わせる大切な法具で、忘れてはならない必需品です。
ですから、どの宗派でも数珠を大切にします。
また数珠は、お経や念仏を唱える時に、その数を数えるためにも使われます。
珠数とも書きますし、念珠とも呼ばれます。
数珠は、一連、二連と数えます。
「仏説モクケンシ経」には、お釈迦さまが「国の乱れを治め、悪病を退散させるには、モクケンシの実を108繋いで仏の名を念ずればよい」と語ったことが説かれています。
モクケンシの実とは、羽子板の羽根の球に用いられるムクロジの実のことです。
しかし実際には、数珠はお釈迦さまの時代の前から使われていたようです。
仏教が日本に伝来したとき、数珠も一緒に入ってきました。
正倉院には、聖徳太子が愛用された蜻蛉玉金剛子の数珠や、聖武天皇の遺品である水晶と琥珀の数珠二連が現存しています。
すなわち、天平年間には数珠が伝えられていたことになります。
数珠が仏具として、僧侶以外の一般の人々にも親しまれるようになったのは、鎌倉時代以降のことです。
数珠は、持っているだけで功徳があるとされ、災いを取り除き、平穏や安らぎを得られるといわれています。
信濃の善光寺では、ご上人が本堂に参詣されるときの途上、道にしゃがんでいる信者たちの頭を数珠でなでる「御数珠頂戴」の行事が毎日行われています。
これも数珠の功徳をいただく風習です。
数珠は多くの珠を繋いで輪にしたもので、珠の数は108個のものが正式とされ、宗派によって形が異なります。
108珠の由来は、108の煩悩を消滅させる功徳があるからだといわれています。
この正式な数珠を、本連数珠とか、二輪数珠といいます。
それに対して、現在では持ちやすくする為に珠の数を減らした、略式の数珠が一般的によく使われています。
略式の数珠は、18~43個くらいの珠で作られていて、大きい珠の場合は数が少なく、小さい珠の場合は数が多く、数に決まりはありません。
この略式の数珠を、片手数珠とか、一輪数珠といいます。
すべての宗派でお使いいただけて、珠の種類や房の形も宗派による決まりはありません。
数珠の形の図解(略式・本式)
略式数珠
略式の数珠は、珠の大きさによって、男性用数珠と女性用数珠に分けられます。
男性は大きい珠の数珠を、女性は小さい珠の数珠を使うのが一般的です。
主玉の間に、やや小さい玉を2個入れますが、これを二天玉と呼びます。
本式数珠
正式の数珠は、宗派によって形が異なります。
一般に使われているものは、108個の主玉と、2個の親玉をつなぎ、その親玉に弟子玉と露玉と房をつけます。
主玉の間に、やや小さい玉を4個入れますが、これを四天玉と呼びます。
数珠は、念珠ともいわれる最も身近な仏具ですが、いつも手に持っているわけにはいきません。そこで考え出されたのが腕輪念珠です。
厄除けや所願成就のお守りとして、手首につける念珠です。
房があるものと、房なしのブレスレットタイプの2種類があります。
腕輪念珠においては、男女の区別はありません。
数珠の素材は大きく分類して、木の珠と、石の珠があります。
珠の素材は、宗派による決まりはありませんので、お好みで選べます。
- 木の珠(木の素材、木の実)
- 木の素材には、黒檀、紫檀、鉄刀木、白檀、つげ、梅などがあります。
木の実には、星月菩提樹、金剛菩提樹などがあります。
菩提樹は、お釈迦さまがその下で悟りを開かれたという木で、その実でつくられた数珠は昔から尊ばれ、経典にも「無量の福、最勝の益を得る」と説かれています。
特に星月菩提樹は、数珠に使われる代表的な木の実で、珠の表面に細かい斑点があり、星を象徴する小さな穴と、月を表す穴があります。
また、羅漢や骸骨を彫った数珠や、お寺の改築のときに出た古材で加工された数珠を記念品として配ることもあります。
- 石の珠(宝石、貴石)
- 石の種類には、水晶、メノー、ヒスイ、サンゴ、オニキスなどがあります。
特に水晶は、数珠に使われる代表的な珠で、仏教で言う七宝のひとつに数えられています。
弘法大師が師匠の恵果阿闍梨から伝授された数珠も水晶で、経典にも「あらゆる報障を除滅し、一切の悪業染着すること能わず」と説かれています。
数珠の房の形には、梵天房、頭付房、紐房などがあります。
房の材質としては、正絹と人絹があり、正絹の方が良いものになります。
正絹とは混じり物のない絹で、人絹とは人造の絹のことです。
房の形や色は、宗派による決まりはありませんので、お好みで選べます。
数珠の珠は、同じ素材でもさまざまな品質があります。特に石の素材は、細かい内傷や表面の加工、色の均一さなどが品質を左右します。
また珠の穴の仕上げも、数珠の品質の重要なポイントです。
数珠の房や中通しの糸、仕立て方にも良し悪しがあります。
良い珠を選別し、良い糸を使い、丁寧な仕立てをすれば、質の良い数珠ができる代わりにコストは上ります。
逆にあまりにも安い数珠には、何らかの理由があると考えなくてはなりません。
いったい私たちは、一年間に何回、数珠を持つ機会があるでしょうか。
年に一度か二度ぐらいと、お考えの方がおられると思いますが、実は意外と多いのです。
仏事というと、すぐに葬儀を連想されるかもしれませんが、身内に限らず、友人、職場、親戚の法事などを入れると、日本人の平均で、三ヶ月に一度は、何らかの形で仏事に参加しているのです。
これに春秋のお彼岸、お盆などのお墓参りを加えますと、一年のうちで、なんと七回は数珠を手にする機会があるということになります。
しかも、社会的に重要な立場にある方や、年齢をとるにしたがって、その機会は増えてきます。
数珠は、貸したり借りたりするものではありません。家族の中でも一人ひとり、自分の数珠は持つものです。
また、仕事関係で万一の場合に備え、職場にも一つ用意しておきたいものです。
最近では葬儀に出席せず、お通夜に弔問を済ます方が増えています。平日の葬儀だと、なかなか仕事の関係で参列できないからです。
葬儀は、ちゃんとした服装で出席しますが、お通夜は平服でもかまいません。
数珠さえ用意していれば、礼を欠くことは、まずありません。
お寺での結婚式(仏前結婚式)のときには、「心身ともに健やかで、清らかな家庭を営むように」と、司婚者(住職)から、紅白のリボンがついた結婚数珠が授与されます。
縁あって結ばれた二人の幸せを願う「寿珠」なのです。
「嫁ぐ娘に 忘れず持たす 数珠ひとつ」
これは、両親から娘への、幸せを祈る贈り物です。
そのほかに数珠は、成人式、就職祝いなど、人生のさまざまなお祝いに、贈り物として贈られます。
数珠をつかった後は、柔らかい布などで軽く汚れをふき取ってください。
木の珠の数珠も、石の珠の数珠も、水洗いや洗剤などを使うのは避けてください。
数珠をしまっておく時は、数珠袋や桐箱、紙箱に納めておくとよいです。
木の実の珠の場合には、お米の虫などがつくことがありまので、防虫剤などを入れておくと安心です。
数珠を繋いでいる紐は、どうしても繊維の疲労、摩耗などで切れることがあります。
数珠の紐が切れても、縁起が悪いわけではありません。むしろ、悪縁が切れたことの表れといわれています。
数珠は修理ができますので、珠を紛失しないようにして、仏壇屋にご相談ください。